太陽観測システムは、時と場所を問わず 「だれにでも安全に使用できること」 が前提です。以下、ラント社製Hα太陽望遠鏡に組み込まれるフィルターについて解説します。 Hα太陽望遠鏡の心臓部は、656nmのHα線を抽出して超狭帯域で透過するメインフィルターです。ラント社は、その心臓部に独自の無遮蔽エタロンを採用。光路中に遮蔽物を介在させない妥協無き設計思想に由来します。 メインフィルターは2つの反射率の高いコート面を平行に配置したエアースペースエタロン (原理はファブリ ーペロエタロン)。太陽が放つ白色光並行光線のほとんどはエタロ ン構造のコーティング面で反射します。エタロンのエアースペース間隔を入射光波長x0.5の任意の整数倍に設定することで、特定の光線だけをエタロンを透過させます (Hα太陽望遠鏡の場合、透過波長が水素波長 「656nm」 になるよう設定)。 上の図を参照ください。最初に、有害な紫外線、熱等を「ERF (エネルギー遮断フィルター)」が遮断。次に、「エタロンメインフィルター」がHα観測に必要なスペク トル線を0.6-0.7Åの狭帯域で抽出。最後に、接眼部後の「ブロッキングフィルター」がその他の透過波長をブ ロックします。これにより、太 陽の水素波長_6562.8Å/656nmだけを観測す ることができるわけです。 メインフィルターのエアースペースエタロンは二枚の融解石英で、二枚が向き合う面の間隔を約200ミクロンに近づけた構造。水素波長だけを0.6〜0.8Åの超狭帯域で透過し、なおかつ高い透過率を実現するには、二面の並行面交差を光の1/100波長以上に仕上げます。これは実現できうる最も高い精度ですが、物理的な値で表せば、エタロン2面の精度はいずれもパーフェクト面からの誤差を0.000005mm (0.0000002インチ) 未満に抑えた状態です。このように、エアースペースエタロンは桁違いの精度が要求される構造体で、エタロン板がわずがに歪むだけで性能は大きく劣化してしまいます。ラント社のHαフィルターはエタロンを直接加圧しないティルト式またはエアープレッシャー式で透過波長を調整するため、エタロンの特性を劣化させることなく、眼視はもとより、撮影において安定した性能を発揮します。 エタロン面には独自のハードコートが採用され、長期にわたる使用が可能。いずれも、NASAの「スターウォーズ」計画でも採用された技術で、耐温度特性が一般的なコート 技術と比較して非常に高く、太陽観測などの過酷な条件にも余裕で対応します。ブロッキングフィルターの一部は定期的に交換しますが、交換が必要なのは構成フィルター中最も安価な部分です。
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エアースペースエタロンのメリット
● 1面1/100λの面精度を要求する口径の大きなエタロンフィルターでも比較的低コストで製造でます。 ● エタロンフィルターを最適なポジションに配置できるため、かつてデースターフィルターが要求したF30という長焦点の光学系は不要。どんなF値の望遠鏡にも幅広く対応します。 ● エタロン板に高屈折率の素材を使用する必要がなく無膨張ガラスの融解石英を採用できるため、「<0.1nm / 200degC」という驚異的な特性を実現。これは、人工衛星に搭 載できるほどの温度安定性です。 ● エタロンフィルターには独自のハードコー トが施され、長期間にわたり高性能を維持できます。 |
性能と安全性の追求
安全性は、ラインと社の太陽望遠鏡、太陽フィルターの設計で常に最優先されます。安全性基準は大学(カナダ)の眼科主任教授にも認められたものですが、紫外線域から赤外線域まで、有害波長の透過率が“1×10-5 (1/100,000)”まで減光されます。 ラント社製フィルターは単体でもこの安全基準を満しますが、構成フィルターの一部が予期せぬ事態により機能が損なわれたとしても、安全基準を重ねて組み合わせることで使う人を守ります。 複数のフィルター群 ラント社のシステムには数多くの赤外線域、紫外線域フィルターが組み込まれていますが、セーフティフィルターの数を増やすことにより、ユーザーの安全性がより確実に保たれるシステム設計です。たとえば、ラント社製太陽望遠鏡を覗いたときに目が受ける紫外線や赤外線の量は、日常環境で目が受ける紫外線や赤外線の量よりも少ないのです。 コーティング ラント社は、エタロンのガラス材を、米国東海岸のISO認定先から仕入れます。エタロンはもとより、その他のフィルターも、入手したガラス材のグラインドから仕上げまで、すべて社内設備で行います。ある特定のコーティングを社外で行うこともありますが、社内のコーティング設備は0.1%R未満 (通常0.06%R域) でARコートを施すだけでなく、+/-1%を超える精度で高反射コートを施すことも可能です。社内ではコート作業を高い精度で制御し、コーティング処方を精密にチューニングできるため、背景ノイズをできるかぎり減らし、高いコントラストを実現することができます。 |
フィルター構成の詳細
エネルギー遮断フィルター(ERF) - ラント社フィルター構成の最初に位置付けられる“TRUE” ERF。ラント社独自の設計により、有害な紫外域と赤外域を両方ともブロックします。太陽望遠鏡の内部に組み込まれた赤くみえるERFは、ゴーストを排除するためにわずかに傾斜してい装着されています。ERFは単体フィルターの先端か、太陽望遠鏡対物レンズの奥に組み込まれます。対物レンズ前に赤外をブロックするフィルターを装備した大口径の太陽望遠鏡もありますが、内部の構成部品に熱が影響しないようにするためです。こうした大口径の太陽望遠鏡の場合でも、対物の内部にはERFが配備されます。 エタロン - ERFの次に配備され、太陽光をサブオングストロームの半値幅で透過させるメインフィルター。セーフティフィルターではありませんが、ほとんどの紫外線域を退けるほどの高い反射率を有します。さらに、赤外域フィルターが無くても、赤外域のほとんどを退けます。 BGフィルター - ブロッキングフィルターの対物側に位置し、アイピースの前で赤外域を吸収するショット社考案の青いフィルターです。 ロングパスフィルター(短波長カットフィルター) - 外見は入射光を90度で反射する通常のダイアゴナルミラーですが、そのミラー自体がロングパスフィルターの役割を果たします。656nmの波長をある割合で反射し、赤外線をミラー裏面に透過します。 ブロッキングフィルター - セーフティフィルターではありませんが、文字通り、Hα線以外の波長をブロックします。 レッドグラスフィルター - システム最後尾に配備され、赤外線コートを施してないレッドグラスフィルター。紫外線を100%ブロックします。 |
取扱いとメンテナンス
エタロンフィルター: 656nmのHα線をオングストロームレベルの狭帯域で透過させるメインフィルター。エタロン面には独自のハードコートが採用され、長期にわたりお使いいただけます。 エタロンフィルターを構成する2枚のエレメントは、高精度に研磨された2面を合せることで接合されています。通常の運用であれば接合面が外れることはありませんが、強い衝撃を加えることで接合面が外れてしまう可能性もあります。運用時には、強い衝撃を与えないよう注意を要します。
前群フィルターで絞り込まれた波長のうち656nm以外をブロックすることで、太陽の水素波長 “656nm” だけを観測できるように働くフィルター群。複数のフィルターがダイアゴナルハウジングに組み込まれています。 うち、ブロッキングフィルターの対物側に位置する青色のフィルターは、他のフィルターと比べると劣化が早期に生じます (画像参照)。劣化が生じた場合、ラント社独自のフィルター分離設計により、劣化した一部のフィルターのみを交換できるため、その費用は比較的安価 (6,600円_1.25") です。このフィルターが曇ったときは、弊社までお問い合わせください。
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品質保証
ご使用中に製品を落下させたり、ダメージを与えた場合は、弊社代理店までお問い合わせください。 ラント社の太陽望遠鏡やフィルターは、独自の設計上の理由により、他社製品と組み合わせて使用しないようにしてください。 |
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