月刊天文 アイピースレポートより(2003年8月号)
テレビュー パワーメイト
―現在最強のバーローレンズ―
レポート: 日本天文研究会 木村陽一
高倍率を得るためには,短焦点接眼鏡を使う方法と,バーローレンズで対物の焦点距離を伸ばし,中焦点の接眼鏡を使う方法があります.
現在,バーローレンズを高機能化したスマイスレンズを一体化した接眼鏡が発展していて,取扱いが楽で,埃の侵入や光軸の狂いもなく,しかも高性能となっています.
ただ,現実問題として小さなレンズの研磨は,まだ改良の余地があると言わざるを得ません.近年の高速研磨,高精度研磨は確かに安価で精度の安定した製品を提供しますが,研磨面自体はベニガラを使った名人芸の研磨には及びません.以前ツァイスのアイピースを分解し,その秘密を探ったレポートを掲載しましたが,この最終仕上げの研磨だけが及ばないために,最高の設計,面精度,曲率,硝材,コーティング,組立加工の総てが優れているのに太刀打ちできない「キレ」と「ヌケ」があるのです.
しかし,レンズ径が大きくなると,研磨が良くなるサイズが存在します.その分レンズが厚くなッて不利にはなりますが,焦点距離15〜20mmの単体オルソは,ほとんどのメーカーのアイピースが満足できるはずです.
つまり,コンパクトにまとめた高性能アイピースよりも,日頃使われない中倍率アイピースとバーローレンズの組み合わせが,キレとヌケの良い,しかも旧ツァイスを凌ぐ高性能アイピースへと変身するのです.
バーローは像を悪化させるか
幾何学的には,対物レンズに収差があればそれを拡大するため,収差が増える図を描くことが出来ますが,光はそんな単純な代物ではありません.
16×F2×λ=回折全長
この式は,単純に言えば,口径比Fの自乗で回折像の光軸方向の長さが増加することを意味します.私たちは,幾何学収差ではなく,回折を持った波面で光を観察しているのです.
F4とF8なら幾何学的収差が2倍になっても,回折全長は4倍ですから,波面収差は半分に減ってしまいます.結論からすれば,焦点距離が長い対物は幾何学的な収差を回折が埋もれさせて,波面収差が少なくなるのです.
もっとも,昔使った玩具に近いバーローレンズに懲りてしまうと,その先入観で「バーローは接眼鏡が買えない時代の代用品」という思いが抜けないものです.
現在最強のバーロー
テレビューでは,「パワーメイト」の名称でバーローと一線を引いているのですが,確かにその性能は鮮烈です.対物の球面収差自体は対物側の責任ですが,高性能バーローはバーロー自身の収差を発生させないよう設計されています.
さらに,発散系の凹レンズが持っている光路の振れ角をメニスカス凸レンズで補正させたのもパワーメイトの特徴です.このような補正を行うことで,単体の長焦点レンズと同等の光路になり,中焦点アイピースの性能を妨げずに,その能力を引き出すことに成功したのです.
研磨の良い単体オルソに対して,レンズ枚数と硝材の厚みにより,ゴースト,フレア,透過率の点では不利になりますが,アイポイントが長くなった分,短焦点アイピース特有の見にくさがなくなるので,むしろこの組み合わせの方がキレが良い印象になります.光路を補正しているので,スマイスレンズを組み込んだアイピースでも良好に使えますが,やはり単体の高性能オルソ系との組み合わせがベストです.