月刊天文 アイピースレポートより(2003年8月号)
テレビュー ナグラーズーム
―先入観をはねつける高性能―
レポート: 日本天文研究会 木村陽一
「ズームアイピース」と言えば,過去の先入観にとらわれると手の出しにくい製品です.この「テレビュー ナグラーズーム」の外観は非常にコンパクトで,重量136g,オルソアイピースにゴム見口が乗ったような形です.しかも価格が62,000円(*)もするのですから,私自身,実物を見るまではナグラー氏の気まぐれで作った遊びではないかと疑ってしまいました.結論から先に言ってしまえば,そんな先入観にとらわれていたのは私自身の不覚と反省しています.
レンズ構成は未発表ですが,構成自体はシンプルなようです.原理は昔からあるバーローレンズの移動によるもので,対物側ズームの一種です.しかし,それを完璧なまでに進化させ,見事に仕上げた製品です.
高倍率側にリングを回すと,接眼部が直進して繰り出すと同時に,対物側のバーローレンズも対物側へ繰り出します.6mm,5mm,4mm,3mmにクリックストップがあり,それぞれの倍率を設定できます.もちろんズームですから中間倍率も使え,倍率を上げると視野が暗くなって回折像が大きくなり,回折像の微細構造が鮮明になっていくことを目の当たりに出来ます.惑星ならば,回折との兼ね合いでちょうど良い明るさに調整し,最も良く見えるように調整できます.
対物側先端には迷光絞りがあり,ズーム時の余分な光をカットしています.高倍率にすると見口が出てくるので,覗いている眼に当たるのですが,見口のゴムリングが柔らかく,繰り出し時に圧迫感がありません.
視野は,このクラスとしては一般的な程度の糸巻き型歪曲があります.この時の見かけ視野は約50°のままで意外に広く,ズームでの視野変化はほとんど気づかない程度です.以前に虹彩絞りを組み込んだズームをインプレしたことがありますが,原理的にはわかっていても,固定絞りのままで視野固定を実現しているのには感動すら覚えます.しかも驚くことに,焦点移動はもちろん,周辺まで堅めな画質に変化がないのです.
深い青色のコーティングはテレビューの他の製品とは違った印象です.ズーム時に貼合面の白い反射のため,軽度の彗星状ゴーストが出るものの,高倍率ですから誤認の問題はなく,適切な画質を保っています.
像質は,単焦点の高級オルソと同等かそれを上回る高性能です.一回り広い画角と長めのアイレリーフ,ビーンズエフェクトが発生しない見やすい画質は,連星,惑星用の常用として天体観測に没頭できる,本当に使えるアイピースです.
*この販売価格は雑誌発売当時の価格